BLウェブコミックの中でも人気かつ過激ナンバーワンと言われるという水田ゆき作ウェブ同名コミックの実写映画化作品「性の劇薬」。
予想以上のヒットとなっているそうで、7/15からNetflixで配信が始まったことで本作を視聴した人の数は爆発的に増えたと思います。
私も早速見てみました。
ボーイズラブとはいったい!?
生と死・愛と喪失といった普遍的なテーマ、そこにジェンダーセクシャリティーの面が盛り込まれるという、深さを味わえる人間ドラマとなっていました。
本作に感じた魅力など、詳しく語っていこうと思います。
前半はネタバレなし、後半でネタバレあらすじ・感想となっています。
作品情報
2020年 日本映画 1時間29分 R18+
原作・公式サイト
原作:
水田ゆき「性の劇薬」(ボーイズファン社)
公式サイト
監督・脚本:城定秀夫
私の奴隷になりなさい シリーズ2・3(2018)
新宿パンチ(2018)
性の劇薬(2020)他
キャスト
北代高士(医師・余田龍二)
渡辺将(桂木誠) 他
成人・Vシネマなどで腕を磨かれた職人監督
本作を見ていると、いたるところに“技”を感じてしまう作り込みと映像表現の数々が。
光・色の使い方や構図なども含めて、物語の彼らの“今”が映像から伝わってくる感覚に何度もなりました。
公式サイトで監督のプロフィールを見て脱帽。
手掛けてこられた作品の圧倒的な数だけでなく、その作風などが多くの関係者に評価されていると知って納得しかありませんでした。
冒頭あらすじ
桂木誠は目覚めると、全裸で手足を縛られ身動きが取れなくなっていた。
冷たい地下室らしき場所に現れたのは彼の体に性的な快楽を強制的に覚えさせようとする男だった。
仕事もプライベートも順調だった誠は、両親揃って亡くなった交通事故に対する罪悪感と自責の念から逃れられず生活が荒れ、手にしていたものすべてを失ったと知った絶望から死を選ぼうとしていた。
「自分から捨てるなら、その命おれによこせ」
誠はこの男余田(よでん)に飛び降りを止められ、監禁・調教されてしまうことになったのだった。
予告編
衝撃的ともいえる、性の世界が描きこまれていますよね💦
でも、それだけではない、ということが彼らの表情から伝わってくる予告編となっています。
性の劇薬 魅力と個性
圧倒的な熱量が迫りくるR18シーン


歌ならばいきなりサビが来るかのような印象を受けた冒頭の性的なシーンに度肝を抜かれ、一気に物語の世界へ。
容赦ない性感への刺激と屈辱的な状況に身を置くしかない逃げ場のない誠。
余田の本当の目的が見えない誠にとって、与えられる水と栄養、睡眠と強烈な快楽のみで過ぎていく一日は 見ている私たちも“なぜ” という疑問でいっぱいになるんです。
死への執着の意味を失う過激な処方
生の根本とも言える食と意識を失うほどの快楽を受けて疲労困憊して落ちる睡眠。
生きることへの重荷を削ぎ落す時間が誠に与えたものこそが、死を選ぶことの意味をも失わせる過激な処方。
性という本能に直接働きかけた衝撃的なアプローチ。
そこには、誠だったからこそという余田にとってのある理由がありました。
誠だったからこそ処方した性という劇薬
ここはネタばれになるので後半で詳しく語りますが、余田は誠じゃなかったらこうはしなかっただろうという理由がありました。
監禁・調教という衝撃的な状況と、余田だけが抱えていた理由。
生きることに辛さを抱えているのは誠だけではなかったんですよね。
映画「性の劇薬」とは
誠だったからこそ処方した過激な性の劇薬
生きる辛さを さらけ出しあった相手に委ねる心と体
ハマリ度は
4
生と性、これが本作のキャッチコピーのように繰り返し伝えられていましたが、まさに、誠がとらわれていた“生きる辛さとなっていた負荷”を減じさせたのが本能を呼び起こす性の処方だったと感じました。
激しく暴力的ですらある“調教”シーンでも、前後の会話や余田の表情をみれば、目をそむけたくなるようなグロテスクさにはなりません。
また、局部なども絶妙のアングルや配置物の遠近を使って位置的に見えない工夫がされていて、それがむしろリアリティが増す効果に。
そして、やがて見えてくる余田の物語が、この出来事の意味を教えてくれることになります。
泥臭く、人間臭く、生と死、愛と喪失といった普遍的なテーマを見せてくれた本作は一見の価値ありです。
視聴方法 (2020.12.6現在)
①Netflixで今すぐ
Blu-ray・DVD-BOX発売あり
*楽天での取り扱いは時期によってない時もあるようです。Amazonには、Amazon限定版などもあり。



この後はネタバレあらすじ・感想を語っていきます
ネタバレあらすじ・感想
余田が誠をこのような環境に置いた理由


余田には同僚でもある同性の恋人がいました。
終末期医療に携わっていた恋人は、やがて見送るしかない患者と接し続けるうちに彼自身どうすることもできない無力感に苛まれるようになったそうです。
彼が求め伸ばしていた救いの手の切実さに気づけなかった余田は、彼を自死で失い己を責め、喪失感を抱いて生きていました。
そんな余田が、偶然にも彼に生き写しの誠と何度もすれ違い飛び降りる瞬間を食い止めた。
過激であろうが、短期間で何としてでも誠を死の淵から引きずり戻すことに全力をかけていた余田のやり方がこの方法でした。
喪失感に苦しんでいた余田
誠を死の淵から引きずり戻すことに全力を尽くすことによって余田もまた自分自身を救おうとしていた可能性がありました。
けれど、喪失感は埋まらなかった。
愛した人を失った事実はまだ余田を悲しませ、自責の念に駆らせ、彼のもとに行きたいと思う瞬間がある。
誠を救おうとしていた間はまだ自分を鼓舞できたけれど、誠を解放した余田は再び空虚な悲しみに囚われるほどでした。
さらけ出した相手に委ねる心と体
余田の事情と監禁のわけを聞かされ、解放された誠。
誠は、一度は別れた余田を追って戻り、海中に進む余田を捕まえています。
出会う前から、生きる辛さに身もだえしていたのはふたりとも。
死の淵にたたずんでいる余田の命を自分がもらうと言う誠。
ふたりは、濡れた体を乾かしながら求めあいます。
そこには、ただ温め合うという事実だけがあったかもしれません。
けれど、すべてをさらけ出した相手に委ね合う心と体の安堵感と解放感は代えがたいように見えました。
強制的な快感ではなく、抱きしめ合いながら与え、自ら得ようとする快感。
ふたりの間に何か感情が生まれたようにも見えたラスト。
ただ、生きていることを確認し合うふたりでした。
伝わってくる制作の熱量と作品の完成度で世界へ
最終シーンは撮影最終日にスケジュールが組まれていたそうです。
役として・俳優同士として出会って積み重ねてきた関係の集大成のようにやってくるラストに感慨を覚えつつ、これまで通り大事なラストシーンも精いっぱい取り組みたいとおっしゃっていた北代さん。
お二人の覚悟は、シーンシーンから伝わってきていた熱量と共に伝わり、本作を深く掘り下げた人間ドラマとして描こうとしていた監督の意志も感じられました。
北代さんのオーディションシーンでの制作側の思いとして、誠を女性に置き換えてみるのではなく、あくまでも男として見て欲しいとおっしゃっていて、本作の本質を逃さないでおこうという姿勢が感じられました。
そして、実写となった「性の劇薬」は、LGBTQを扱った映画祭を中心にノミネートされていて、独立した作品として海外へとひとり歩きしていきそうです。
この圧倒的なまでの熱量と、描きこまれた普遍的な人間ドラマは必ずや世界でも見た人の心に残るはずです。
さいごに
衝撃的なR18の描写を経ていなければ絶対に描き出せない余田と誠の物語。
終盤に見えてくる失った人への・生きている人への・そして救い方が分からない自分への愛を描いた物語でした。
原作はまだ続きがあるのでしょうか?ここで終わるのでしょうか。
いずれにせよ、愛され読まれた原作のパワーも感じられた映画でした。
興味がある方にはぜひおすすめします。