2019年WOWOW放送の日本ドラマ「孤高のメス」を見終わりました。
主演は滝沢秀明、仲村トオル。
移植手術の黎明期を切り開いた医師たちの努力と葛藤を描いた社会派ヒューマンドラマで、じっくりと最後まで引き込まれました。
新サイトをスタートしてから本作が日本ドラマ第一本目となった「孤高のメス」、良かったです。
今回もどういったところが良かったのか、感じたところをちょこっと語っていこうと思います。
前半はネタバレなしでお読みいただけます。
ドラマ「孤高のメス」作品情報
原作は医師である大鐘稔彦氏による小説
本作は大鐘稔彦氏本人が自らの経験をもとに書かれた著書が原作となっているそうです。
その時代に直面された数々の出来事を、ドラマでは今だからこそより深く理解できるように描かれていたなと感じます。
放送・スタッフ・キャスト
放送:2019年 WOWOW 全8話
監督:内片輝
石の繭~殺人分析班(2015)WOWOW
シグナル 長期未解決事件捜査班(2018)他
脚本:前川洋一
空飛ぶタイヤ(2009)
マークスの山(2010)
下町ロケット(2011)
レディー・ジョーカー(2013)
軍師官兵衛(2014)
沈まぬ太陽(2016)他
キャスト
滝沢秀明(当麻鉄彦)
仲村トオル(実川剛)
長塚京三(大川町長)
工藤阿須加(青木隆三)
石丸幹二(島田院長)
山本美月(大川看護士)他
脚本は社会派ヒューマンドラマの大ベテラン
2009年の「空飛ぶタイヤ」以降、執筆作品の多くがWOWOWとNHK中心という前川洋一脚本家。
WOWOW作品は社会派の色が濃くなる印象ですが、どの作品もヒューマンドラマの部分を熱く丁寧に描かれています。
じっくりと物語に引き込まれていくうちに、登場人物たちの不屈の生きざまに惹かれ、時には涙してしまうほどでした。
主演陣について
滝沢秀明さんは医師役が初めてだったと知って驚きました。
清廉で孤高の医師を、謙虚で清潔感あふれる人物像に演じ上げていて主人公にぴったりでした。
一方、足元を固めながらより後続たちが進みやすい環境を作ることを目指す、こちらも方法は違えど熱意ある医師を演じていたのが中堅俳優として安定的地位を確立している存在感抜群の仲村トオルさん。
医師として高い目標を掲げ歩む主人公たちの苦悩と葛藤を見せてくれました。
あらすじ
冒頭あらすじ
1989年、外科医当麻鉄彦は日本で地域医療を充実させることを目標としてアメリカからもどってきた。
日本では、まだ臓器移植の法整備が進んでいなかったが、当麻は移植でしか助からない患者がいるならばするべきだという考えを持っていた。
もう一人、実川剛もまた、イギリスで学び日本での肝移植を早い段階で実現させようと熱意を抱いていた。
未開の地を切りひらく
現在の2019年の日本で、まだアメリカなどよりは少ないかもしれませんが、移植という治療方法は受けられるというのが当たり前になりました。
本作の舞台は1989年。
主人公たちは、日本では前例がない移植治療の道筋を示しました。
多くの症例に接し対応できる自信のある医師の決断と行動する勇気が、少しでも日本の医療を前へと進めてくれたんだなと感じられる、心に響く物語でした。
ドラマ「孤高のメス」とは
日本で移植治療の第一歩を示した熱意ある医師を描く
社会派ヒューマンドラマ
ハマり度
3.5
ロマンス要素・サスペンス要素一切なしの直球社会派ヒューマンドラマ本当に良かったです。
滝沢秀明さん演じる当麻先生は老若男女問わず大人気間違いなしの、うっとり見惚れる美貌と才能そして人柄というパーフェクトな人物像に仕上がっていました。
これからの年齢だからこそ彼に演じてほしい役がたくさんあると思えるだけに、演技者としての引退は本当に惜しいですね。
ここからはネタバレがあります
ご注意ください
ネタバレ感想
主人公二人それぞれの選択
“法整備・コンセンサス“という準備ももちろん大切なのですが、本作の主人公は、現場の医師として助けられる命ならば一人でも多く救うことを第一にしていました。
アメリカで多くの症例に接し、対応できるという自信のある主人公だからこその行動力と決断でした。
目の前の患者の命を救うことを断固として優先する当麻と、移植医療そのものの発展を安定的に加速させたい実川との方向性の違いを同時に描きながら、未知の領域への果敢な一歩に情熱を見せる主人公たちの対比が物語の厚みを増していたように感じます。
主人公二人の志
最終話、実川が当麻に語ったセリフがとても印象に残りました。
「当麻先生のメスは打算のない孤高のメスだ」と。
患者を助けるためだけに断行した日本初の移植手術を各方面から歪曲され叩かれた当麻先生に対して、「先生は間違っていない。いつかその貴重な一歩が評価される時が来る」という実川。
志の高いもの同士だけが理解し合える境地のようなものを見せてもらえたような素敵なシーンでした。
デフォルメの功罪
それから、一つだけ残念だった演出が主人公たちに劣等感から嫉妬し足を引っ張るヒール役の野本先生というキャラクターとその取り巻きでした。
強烈に嫌な奴というキャラクターを少しデフォルメしすぎていて本作のトーンと合っていないと見るたびに感じてしまいました。
勧善懲悪もののドラマとかならぐぐっと映えるのですが。
さいごに
過去に見たWOWOWドラマの中で最も印象に残っているのが、2011年の吉岡秀隆主演「移植コーディネーター」でした。
本人意思表示がなくとも家族の同意で小児の移植が行われることになった日本という舞台設定の中で、現場でのジレンマや遺族の葛藤、そして移植を待つレシピエントの切なる願いなどを盛り込みながら描いてある社会派ドラマでした。
このドラマを見た時と同じように、本作でも生死を扱う医療の明快である部分と曖昧である部分とのはざまで決断を迫られる悩み多き人間の姿をひしひしと感じさせられました。
「孤高のメス」では医師の、「移植コーディネーター」ではドナー・レシピエント側という違いはありますが、私ならその時どう感じ決断するのか、そんなこともじっくりと考えさせられる、それぞれ素晴らしいドラマでした。