カンヌ映画祭パルムドール(最高賞)ほか、国内外の映画祭で評価された是枝裕和監督の「万引き家族」を見ました。
タイトルから一発で伝わる衝撃的な設定も含めてとても気になっていて必ず見たいと思っていました。
人が生きていくこと、その心の拠り所としてあってほしい家族の姿が本作には描かれていてずしんと心に残りました。
今回も私の感じたところを語っていきたいと思いますが、本作に関してはネタバレを回避して書くことがどうしてもできそうにありません。
まだ見ておられない方やネタバレを望まれない方はご注意ください。
万引き家族 作品情報
公開
2018年 日本 英題:Shoplifer
公式サイト:万引き家族
監督:是枝裕和
幻の光(2095)
誰も知らない(2004)
そして父になる(2013)
海街Diary(2015)
三度目の殺人(2017)他
キャスト
リリー・フランキー(治)
安藤サクラ(信代)
松岡茉優(亜紀)
樹木希林(初枝)
城桧吏[かいり](祥太)
佐々木みゆ(ゆり)
深い味わいを残すキャスト陣
リリー・フランキーはじめ安藤サクラ、そして樹木希林さんまで、リアリティ以上のものを演じてしまう俳優さんたちが勢ぞろい。
社会の隙間に零れ落ちてしまった家族たちの中心として存在していた彼らのヒューマニズムと反社会的な行動のアンバランスさに説得力を与えていたのはこの実力俳優さんたちでした。
冒頭あらすじ
治と祥太はスーパーで巧妙に万引きをして貧しい家計の足しにしていた。
帰り道、以前も見かけた幼い女の子が部屋から閉め出されてお腹をすかせていると知った治は、自分たちが住む初枝の家に連れ帰ってきた。
ゆりと名乗った女の子を含め6人になった家族たちには血縁関係はなかった。
予告編
ゆりが治たちと暮らすことになった経緯や、この家族の生き方が現代社会で許されるものではないためにやがて訪れる結末への気配が感じられる予告編となっています。
万引き家族が描いたもの
居場所を求めていたひとたち
彼らが疑似家族の中で得ていたもの
- 安心できる居場所
- 共感してくれる人
- 支え合っている・互いに役立っていると感じられる共生感
- 認めてくれる人
- 手を握り、時に抱きしめて寄り添ってくれる人
彼らはともに生き、身を寄せ合って生きていた疑似家族。
家族を持てなかったあるいは実の家族で得られなかった安心や安らぎをわけあっていました。
共感できるからこそ救われていた
家族の絆というものが途切れた痛みとさみしさが互いに分かるからこそ彼らは穏やかな笑顔で初枝の家で暮らしていました。
なかでも、5歳のゆりは実の親の元に帰ることを自ら拒みました。
実の親からネグレクトや暴力を含む虐待を受けていた祥太とゆりを彼らは事実上“救った”と言えますが、社会ルール上それは許されないことなんですよね。
社会構造やルールから零れ落ちたひとたち
身を寄せ合い安らぎを得られていたとはいえ、衣食住が維持できるほどの経済的な基盤の上に成り立っていなかった家族。
家の持ち主で一人暮らしの初枝とは血縁がなく、住民票もなし、子どもたちは就学もできず、稼業は万引きや車上狙いという犯罪。
いかにこの疑似家族が今の彼らにとってベストな選択だったとしてもそこに将来はなく、現代社会のルールの上では認められようがないものでした。
誰かが捨てたものを拾っただけ
亡くなった初枝さんをやむなく床下に埋葬したことから“遺体遺棄“の罪に問われ、ゆりや祥太を“誘拐した罪”にも言及されたとき信代が言った言葉が
「私は拾っただけ。捨てた人他にいるんじゃないですか?」
選びようのなかった実の家族から精神的にも状況的にも捨てられたも同然だった”捨てられた”悲しさをぶつけるような言葉でした。
捨てた人の方がもっとひどいんじゃないですかと。
家族たちのその後に思いを馳せる
すべての罪をかぶって信代が服役し、治は一人暮らし。
祥太は施設へ、ゆりは母親のもとへ。
亜紀は両親から一身に愛情を受ける妹さやかのいる家に戻ったのでしょうか…。
祥太
バラバラになった疑似家族たち5人のうち、祥太に希望を託したくなります。
もう自分の考えで行動できるようになっていた祥太は、万引きが良くないことを知っていたし、この稼業をやり続けることでゆりが危険になることも分かっていました。
治のことをお父さんとは最後まで呼べなかった祥太はもっといろんなことを理解し自分なりに考えていたような気がします。
施設に入った祥太だけれど、あの家族の中で出来上がった絆は消えないと思うんです。
治の住む部屋もゆりの家も知っている祥太はもしかしたら会いに行くかもしれないとふと感じます。
ゆり
本当の名前はじゅり。
母親のもとに戻ったゆりが団地の高い通路の目隠しの隙間から外をのぞく姿は、祥太お兄ちゃんか治おじさんが迎えに来てくれないか待っているかのようにみえて悲しい。
ゆりのお母さんも居場所のないひとのようです。
万引き家族が残した余韻
さまざまな事情が複雑に絡み合い、安らげる居場所を求めたひとたち。
さみしさ、つらさ、悲しさ、うれしさ、そんなものを共感しながら、家族からもらいたかったものを分け合った家族でした。
人が求める心のよりどころとなるものを衝撃的な設定のなかでシンプルに見せられた映画でした。
きっと、日本だけでなく海外でも受け入れられたのはこのシンプルな感情が伝わったからなんじゃないだろうかと思います。
万引き家族とは
家族から得たかったものを分け合った
悲しい思いを抱いたものたちが身を寄せ合った疑似家族の物語
ハマリ度
4