クリント・イーストウッド監督・主演の映画「運び屋」(2018)を見ました。
クリント・イーストウッドが88才の2018年公開した本作は、90才の麻薬の運び屋という衝撃ともいえる主人公の物語。
興行成績が良く、多くの人が見た映画ということで見ようと思っていました。
プロットは衝撃ではありますが、主人公の人柄とヒューマンドラマを貫いたコンセプトに最後までひきつけられて見終わりました。
私の感じたところを、今回はネタバレありで語っていこうと思います。
作品情報
公開・制作
2018年 アメリカ
監督・脚本・キャスト
監督:クリント・イーストウッド
許されざる者(1992)
ミリオンダラー・ベイビー(2004)
グラン・トリノ(2008)
人生の特等席(2012)
アメリカン・スナイパー(2014)他
脚本:ニック・シェンク
グラン・トリノ(2008)他
キャスト
クリント・イーストウッド(アール)
ブラッドリー・クーパー(ベイツ捜査官)
イグナシオ・セリッチオ(フリオ)
ダイアン・ウィースト(メアリー)
アンディ・ガルシア(ラトン)他
実話記事を元に映画化
2011年に逮捕された90才手前の元園芸家の運び屋レオ・シャープの記事を元に映画化されたそうです。
レオ・シャープについて書かれたウィキペディアの項目を見に行ってみたのですが、これが本当ならば基本設定についてはほぼ実話に沿っていたと言えます。
冒頭あらすじ
アールは間もなく90才。
質の高い花の苗を扱う園芸家として品評会など全米を回る仕事を優先してきた彼は、家族を後回しにし続けてきた。
仕事が行き詰まり倒産してすべてを失った今、戻りたい家族からは拒絶されてしまった。
とりあえず金が必要だったアールは紹介された配送の仕事を引き受けた。
だがそれは、麻薬の運び屋だった。
予告編
ここで日本版DVD発売元の予告編をご紹介します。
アールの人生における後悔の理由や自分が一体何を運んでいたのか知ったシーンが予告編に盛り込まれていますね。
運び屋の魅力と個性
やらかし続けたダメ父さん
アールはこれまでも、そして90才目前となったこの段階でも、家族から見れば常にやらかし続けた男だったんだな~とまずは考えてしまいました。
家族にしてみればずっといないも同然で、いて欲しいという期待を持って待っていた家族を裏切り続けた挙句、すべて失った今になって後悔の嵐。
後悔してどうしたかというと、金をもって家族のもとに帰ろうと怪しい配達を引き受けるんです。
この物語にヒューマンドラマのきらめきを感じ、何となくじんわりとしたものを感じてしまったのはアールというキャラクターを構築したクリント・イーストウッドの力量一つだったのではと感じずにはいられません。
アールの魅力
会話にウィットが効いていて、細かいことにこだわらない。
歯に衣着せぬ物言いをするけれど人当たりが良く、従軍経験があるためか度胸も据わっているアールは結構人気ものなんです。
麻薬カルテルのボスの右腕的なフリオに人生のアドバイスをさらりとしてしまうような親身なところもあったりして。
そんなアールは、家族とどう接していいかだけが分からなかった不器用な男だったのですが、奥さんの最後の時には駆け付けました。
麻薬を運ぶ最悪の仕事の片棒を担ぎながらも、その仕事を繰り返して大金を受け取り、その金で仲間や家族を助けたいという思いが見えていたからかもしれません。
矛盾をけむに巻くクリント・イーストウッドマジック
決して悪人じゃない人でも麻薬の流通を担うことがあるのか、しかも何度も捕まるまでずっと…という部分がどうしてもある。
捕まるまでやり続けるか、殺されるか、とうところまで来ていたともいえるけれど…。
「細かいことは気にしない」といったアールに、「だから今こんな仕事してるんだろ」とフリオがツッコんでます。
決して悪人じゃないとか実は善悪の判断ができているという可能性との矛盾をけむに巻くメンタルというか魅力があった。
フィクションとして再構築されていると思えばこそ、運搬中警察官をごまかしたりやり過ごしたりする冒険のようなシーンが面白くすらありました。
本作のラストはアールが自ら減刑を求めたりせずすべての罪を認めて服役することになりました。
反省し後悔しているのは確かなんですが、これはこれでまたもや娘や孫たちに心配をかけたアール。
もうずっとやらかしっぱなし…。
90才のおじいさん、ということでどこかユーモラスに感じて許せてしまいそうになるのは、きっとクリント・イーストウッドマジックなのでしょうね。
運び屋とは
90才目前のクリント・イーストウッドが自ら演じ描いた90才の運び屋
人生における大後悔に気づきやり直そうとしたダメおじいさんの物語
ハマリ度は
4
面白かったんですよね、なかなか。
家族にいたら本当に困る方ではあるんですが…。
あまり触れませんでしたが、この運んだ麻薬の末端価格新記録を樹立したともいわれる運び屋通称タタを追ったDEA捜査官を演じたのはブラッドリー・クーパーでした。
やり手だけれど人間味感じる捜査官とアールとの一瞬の邂逅がやっぱり印象に残っています。
さいごに
なかなか面白く見ることができたので、シビアなメッセージを内包しているようなタイプの映画ではなくエンタメ寄りの物語だったと感じます。
興行成績が良かったにも関わらずあまり賞レースに絡まなかったのは、おもしろさ以上の見どころや説得力が他の作品以上はなかったからかもしれません。
それでも、面白さは一つの称賛ポイントだと思います。
[jin-fusen1-up text=”ちなみに本作のモデルとなったレオ・シャープは”]
2009-2011まで運び屋をやり逮捕され、2016年12月に92才で亡くなっているそうです。