2021年韓国Netflix制作ドラマ「地獄が呼んでいる」。
残酷な設定を映像化しつつ、人物や社会風刺で見るものの心を抉るダークなヒューマンクライムドラマだった「イカゲーム」の世界的ヒットが記憶に新しいところですが、本作「地獄が呼んでいる」は超常現象系サイコスリラーという下敷きの上で展開した人間や社会の脆弱さを辛辣にとことん無慈悲に描いた物語。
監督は「新感染」のヨン・サンホ監督。
原作はウェブ漫画で、原作者はアニメーション作品の監督も多くされてきたヨン・サンホ監督とチェ・ギュソク作家。今回ドラマの脚本も手掛けられています。
原作のイメージをそのまま実写化させたと言える「地獄が呼んでいる」を視聴して感じたところを語って行きたいと思います。
今回、記事全体がネタバレを含んだあらすじ感想となっていますので、望まれない方はご注意ください。
作品情報
2021年韓国 Netflix制作オリジナル 全6話
*釜山国際映画祭出品作品
原作・演出・脚本
原作・演出・脚本:ヨン・サンホ
「新感染」(2016)
「続・新感染 ファイナルエクスプレス」(2020)
ドラマ脚本:「謗法~運命を変える方法」(2020) 他
ヨン・サンホ監督はアニメーションの脚本・演出などで評価され、2016年の長編映画「新・感染」のヒットで実写映画監督としても有名になられました。
本作「地獄が呼んでいる」もオリジナルは漫画です。
原作・脚本:チェ・ギュソク
「錐」(2015)ドラマ・原作
「地獄」(2021)本作原作・脚本
キャスト
ユ・アイン(チョン・ジンス)
キム・ヒョンジュ(ミン・ヘジン)
ヤン・イクチュン(ギョンフン)
パク・ジョンミン(ペ・ヨンジェ)
ヤン・ジナ(ソン・ソヒョン)
キム・シンロク(パク・ジョンジャ)他
ドラマ概要
死亡日時を予告された人が、人外の恐ろしいものによって惨殺され焼かれる事象が存在し、ある日それは衆目の中遂行され人々の知るところとなった。
この事象を早くから知っていたチョン・ジンスは、新真理教の議長として人々にそれを伝え、罪人が神によって地獄へと落とされるさまを人々に知らしめていると説いた。
人知を超えた存在の所業に、正義が為されていると信じる人々とそれを疑う者との相容れない戦いも始まっていた。
予告編
字幕選択から日本語字幕が出せます。
超常現象。
それは、「人々を罪から遠ざけるために神がよこした地獄の使者の姿」。
理解を越えた存在の意味をそう翻訳して見せたのがチョン・ジンス。
暴力的で激しく、怪物のようなものに襲われるなすすべない人の姿は絶望的に残酷ですね。
暴力的なシーンはくり返し出てきますので、苦手な方はご注意ください。
物語は、なぜこの事象を描き、どこに運ぼうとしているのかを見届けさせる勢いがありました。
地獄が呼んでいる が描いたもの
理解を越えた事象の答えを誰かに委ねる危険性
怪物のような3体の巨大なものによって暴力的に虐殺され焼かれる。
衝撃的で残虐なそのありさまの意味を「地獄に落とされるさまを人々に神が見せることによって罪を犯さないと人々に心に刻ませるため」と語ったジンス。
それならば彼らがあんな目に遭うのは当然だ、と思わせられた人々の正義の心を刺激します。
暴力を推進する神など……、と思うのですが、あの事象を説明できる人がいない以上、ジンスの言葉を否定できるものがいなかったのも悲しい事実でした。
誤った正義が独り歩きし、自分の問題を人のせい、何かのせいにしたい人たちによって社会そのものが地獄と化す。
一度”正義””贖罪”などと言う言葉に包まれてしまうと、それを否定できる事象に出会うまでは決してその意味を拭えない恐ろしい圧も描かれていました。
ユ・アインの演じたジンス、彼の抱えた真実と絶望と罪
ドラマ中盤、EP3でユ・アイン演じるチョン・ジンスはこの世を去ります。
この事象に対する自分自身の真実を語り、その何にも報われない、埋めることのできなかった空虚さを抱えたまま去った彼の人生を残して。
ジンスは高校生の時に20年後の死の予告を受けていました。
人知を超えた出来事の当事者となり、なぜ自分がその目に遭うのかを問い続ける中で永遠に出ない答えを探し続ける人生。
そこに光明は一つもなかったとしたら。
劇中、この事象によって予言後数十秒後に一緒にいた娘を失くした教授が語った言葉が真実を突いていました。「娘は事故に遭ったのだと思っている」と。
天災や災害のように、遭ってしまうもの。そこにはそれほどの目に遭ってしかるべき理由などないという真実でした。
ジンスがもがき、あがき、たどり着いた20年目
ジンスの20年。
事象を調べれば、その予告はどういった形で為されるのかその避けようのない事実に愕然としたはずです。
なぜ自分が、なぜ、と問い続け、虐殺死へのカウントダウンの中で自分の人生に意味づけをしたかった。
それは歪んだ自己顕示欲に繋がり名を残すという一点へと絞られてしまったんですよね。
EP3、ジンスが去ったあとに予告編を含め、ジンスのシーンを見返すと、ユ・アインが演じるジンスの生活ぶりの意味、空虚な視線や時折わずかに見せた感情的なシーンでの意味が再び迫ります。
感情の在処が見えない飄々とした、けれど暗い洞穴のような視線が印象的な彼の20年目の姿。
ユ・アイン、やっぱりすごい。
地獄が呼んでいる とは
人知を超えたものによる惨殺事象
神による罪人への罰なのか、意味を求める人々の正義とは
ハマリ度は
3.5
すごい物語でした。
鋭く切りつけられるようでいて、でも鈍い刀でなぶられるような感覚にもなる、それが私の感じた「地獄が呼んでいる」でした。
全6話の後半3話は、この事象を利用してある種の権力を手にした者と、事象に意味づけられた理由そのものに齟齬があると気づいた者たちとの戦いの巻でもありました。
結局のところ、この事象が起こり為される理由は誰にも分からないままなのですが、罪人が罰を受けているのではないということが明らかとなります。
誰にも止めるすべのない事象への絶望は残るものの、この災難に遭ってしまう人や家族を差別したり断罪することに同調するような社会的な圧力からは解放されそうです。
描きたかったのは煽動に弱い人々や社会の脆弱性では
物語のクライマックスとなるパク・ジョンミンたち親子のシーンは救いのシーンでした。誤った方向に導かれた人々の作り出した地獄が誤っていたことを示す大切なシーン。
でも、監督が描きたかったのは、人々がわかり易い正義に乗せられ誤った方向に煽動される社会丸ごとの脆弱さだったのではないかと私は感じています。
さて、ラスト、一度怪物に焼かれて灰となったパク・ジョンジャさんが再び元の姿を取り戻すところでエンディングを迎えます。
あれはどういった意味を持つのか、続編の予定があるということなのかもしれませんね。
「地獄が呼んでいる」は、今すぐNetflixで全話視聴できます
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