先ごろ3夜のスペシャルドラマとしてSBSで放送された韓国ドラマ「死の賛美」がNetflixオリジナルとして配信スタートしていたのでさっそく見ました。(2018.12.19現在)
若手トップクラスのイ・ジョンソクとブレイクしてきた女優シン・ヘソンという旬な主演キャストで実話ベースの時代もののメロドラマが作られたということで興味がわきました。
「死の賛美」は、ミュージカルや歌劇、演劇などで演じられ、中でも1991年女優チャン・ミヒ主演で大ヒットをしたメロ映画が最も有名だそうです。
本作はそれとはまた違った角度から描いたという本作。
主人公たちの背景を含めた作品情報や私の感じたところなどを語っていきたいと思います。
作品情報
放送
2018.11.27・12.3・12.4 SBS 3夜全6話(Netflixは3話)
監督:パク・スジン
あなたが眠っている間に(2017)w/オ・チュンファン
死の賛美(2018)
脚本:チョ・スジン
死の賛美(2018)
キャスト:
イ・ジョンソク(キム・ウジン)
シン・ヘソン(ユン・シムドク)他
イ・ジョンソクの出演理由
今作はパク・スジン演出家との縁でイ・ジョンソクのキャスティングが叶ったそうなのですが、それ以上に話題になったのはイ・ジョンソクがノーギャラで出演を引き受けたという部分。
事務所が語ったところから、“製作陣も俳優も、短編を通して新たな挑戦を試み、可能性を見出すことが可能と考えるイ・ジョンソクの意義ある目的に合致していた”というようなことのようです。
たしかに、視聴率が見込めるかで制作できるかが決まる実情からすると、チャンスさえあれば才能を発揮できる人材がその機会を得られるのはドラマ界の未来にとっても大切なことですよね。
イ・ジョンソクが出てくれるならGOでますよね。
二人が出会った時代背景
1921年にキム・ウジンとユン・シムドクは東京で出会いました。
日本は大正時代。ウジンの祖国朝鮮は当時日本統治下となって11年目。
この2年前には現在韓国で三一節として祝日に指定されている独立運動があったころ。
抗日運動はありつつも、近代教育は進み、インフラが整い始める中、ウジンとシムドクはそれぞれ英文学と声楽を学ぶために日本に留学中でした。
時代背景ゆえに、横暴すぎる日本人登場人物は出てきます。
けれど、二人が独立運動への意思を持っていたという部分や、シムドクが歩む人生の行き止まりともいえる道を提示してしまうという部分を受け持った役割ゆえのデフォルメもあったと言えます。
あらすじ
1926年8月4日早朝、釜山に向かう船に乗っていた男女二人が消えていることが判明する。
船のへりには男女の靴が海に向かって並んでいた。
…1921年、日本の東京に留学していたウジンとシムドク。
劇作家としてウジンが率いていた朝鮮人劇団で歌が歌える女優をさがしていて紹介されたのがシムドクだった。
将来有望なソプラノ歌手と天才劇作家。静かでそっけないはずのウジンに惹かれるものを感じ関わらずにいられないシムドク。
2人は”有島武郎“という共通の話題で距離を縮めていった。
世相を切り取って見せる脚本を書くウジンは日本統治について批判的な要素を盛り込むこととなり、本国で舞台を公演したために、三一運動が沈静化したばかりで警戒を続ける朝鮮総督府からにらまれてしまうのだった。
予告編
作家としてのウジンの姿、一緒にいられるだけで幸せというシムドク。
幸せを感じられる瞬間瞬間を共に過ごす二人の姿が美しいです。
死の賛美 とは
心に反して生きるくらいなら死を選ぶ
のしかかる宿命から逃れようとした二人の悲恋物語
ハマり度は
2
美しい二人の恋は儚く清らかに描かれていました。
絶望感を抱えながら、品を失わない人物像を貫いたイ・ジョンソク。
シン・ヘソンも、奔放な女性というよりも可愛らしいシムドクを演じていて素敵でしたよ。
ここからはネタバレがあります
ご注意ください
ネタバレあらすじ・感想
「一部フィクションを含みます」という但し書きでスタートした本作。
実話ベースであるということで、二人には心中が待っているという最期は変えられないためにそこに向かっていく悲壮を描くのか気になっていました。
けれど本作の「死の賛美」は、悲恋よりも天才劇作家キム・ウジンの出自や彼の置かれた状況を描くことで人物像をより掘り下げて描いたということがよくわかります。
ウジンは地元一の両班だった良家の跡取り。
身分制度がなくなったこの時代においてはブルジョワ階級の人間であることに後ろめたさも感じていた彼でしたが、父の経営する会社を継ぐことは避けて通れませんでした。
シムドクと心が通じあい、求めあいそうになったとき、ウジンは思いとどまりました。
なぜならウジンは妻帯者だったから。
別れと再会
良家の跡取りはこの時代でも良家の子女と家同士の取り決めで婚姻を結んでいて、時代の束縛から逃れたかったウジンは留学を伸ばし25才となっていたあの日シムドクと出会ったわけです。
一度は別れた二人が数年後、彼女の夢のステージを祝い再会します。
その時にはウジンは自分の息を殺し会社経営をし、唯一の心の支えだった文学誌への寄稿も反対され限界が近づいていました。
一方で有名になったとはいえ弟と妹の留学費と家族の生活費を出せるほど稼ぎが多くないシムドクは資金を持つ人と結婚するかスポンサーがつくしかありませんでした。
真に生きるために選んだ道
癒し合えるのはお互いだけ、という二人が一緒にいられるには出ていくしかない。
ウジンは父に理解してもらうことは不可能と知り、そしてシムドクとの関係も否定せず家を出て日本へ。
シムドクはついてくれたスポンサーとの関係を歪曲されスキャンダルになり仕事を失ってしまい、ついには朝鮮総督府の嘱託歌手の命令が出た。
そこにはシムドクの体を狙うものもいて…。
シムドクが日本でレコーディングした最後の曲が「死の賛美」という曲だったそうです。
ウジンは日本にいた劇団の仲間に書き綴った脚本を残して。
二人が初めて共通の話題として会話した“有島武郎”作家。
彼自身がその2年後に人妻と心中したと報じられ、愛する人と生きられないなら死を選ぶってどう思うか?というような会話をしたシーンがありました。
その時は”残されたほうが相手を思い続けて生きるのがつらいから”というウジンに対し、”結ばれないなら別れればいい”と言っていたシムドク。
今二人はそのどちらでもないと気づいていました。
”正直に生きるために死を選びたい””
”君は生きているか、真に生きるために死を選びます”
とそういうことだったようです。
今作が描いたラストシーン
最後に美しかった二人のラストシーンがSBS公式から上がっていたので貼りますね。
二人にとってこれは”ハッピーエンドだったという最初で最後のキス”…
さいごに (ピリ辛)
全体的に洗練されたイメージの作品に仕上がっていました。ですが、にじみ出る人間臭さや葛藤を演出し足りなかったのではという思いが私の中には残りました。
2人の恋はつまり不倫。
しかもウジンの妻も登場人物として描かれていて、ウジンの人物像の深さを表現する演出はもっとあったはずと思わずにはいられません。
今の時代にこの物語をドラマにするという意味を果たして強く出せていたのか。
イ・ジョンソクをキャスティングできたことでドラマの質が維持されたと言えば少し厳しいでしょうか。