2020年Netflix完全オリジナルドラマとして製作配信されている「人間レッスン」。
主演は「SKYキャッスル」(2018)や「梨泰院クラス」(2020)などで存在感を上げてきた若手のキム・ドンヒ君ということでチェックしていまいた。
ティーンによるヒューマンクライムを題材としていた本作は、緊張感漂うダークさのあるストーリーでありながら、ティーンが主役ゆえのさまよえる混乱が描かれている個性的社会派作品。
ドラマのコピーは「間違った答えに命を賭けた」。
2話あたりからぐいぐいと引き込まれていった本作の魅力について語っていこうと思います。
作品情報
配信・話数
2020年Netflixオリジナルドラマ 全10話
演出・脚本・キャスト
演出:キム・ジンミン
犬とオオカミの時間(2007)
ロードナンバーワン(2010)
傲慢と偏見(2014)
結婚契約(2016)
カノジョは嘘を愛しすぎてる(2017)
無法弁護士(2018)
人間レッスン(2020) 他
脚本:チン・ハンセ
人間レッスン(2020)
キャスト
キム・ドンヒ(オ・ジス)
チョン・ダビン(ミニ)
パク・ジュヒョン(ギュリ)
ナム・ユンス(ギテ)
チェ・ミンス(イ室長)
キム・ヨジン(へジョン警察官)
パク・ヒョックォン(担任ジヌ先生)他
キム・ジンミン監督の大胆かつ繊細な演出が光る
登場人物の感情が深く深くダークサイドやサッドサイドへと沈み込み四面楚歌となっていく。
大胆で繊細さが光るキム・ジンミン監督の演出はそういう整理がつかない状況をヘビーでヒューマンに描かれます。
朝鮮戦争時を描いた「ロードナンバーワン」クラスの重さを現代高校生を主役に描いてしまう緊張感に今回も肚をつかまれた感覚になりました。
冒頭あらすじ
ジスは来年大学に進学し、会社員となり普通の暮らしをすることが夢という模範的な優等生。
ただジスは、実は両親が出ていき、家賃を含めた生活費や進学するための費用、大学の学費などを自分で稼ぐしかない追い詰められた状況だった。
計画通りの期間で必要な額を稼ぐためにしていた仕事は、身元を隠したままやれるオンラインによる売春仲介業兼用心棒業だった。
予告編
Netflixの予告編がこちら
安全な距離を保っていたはずのジスが、ギュリと関わったことで破滅への扉を開いてしまう様子が見られます。
血、暴力、恐怖といった要素が詰まっていると分かる予告編です。
人間レッスンが描いたもの
極端な状況にいる主人公ジス
平凡すぎる優等生ジスが売春の仲介業で稼いでいるという設定で始まる本作。
現場と距離を置きながら稼げるシステムを作り、需要と供給のバランスが取れた状況を維持しながら順調に回せていた様子が描かれるというぶっ飛んだ設定で始まります。
ジスの頭脳明晰さと実行に移した行動力や度胸を見ると、さえない優等生とは言い切れない何かを感じさせます。
それと同時に、なぜ、この方法で稼ごうとしたのかという理由も痛いほど説明されていて、見るものとしては一旦この「人間レッスン」という世界でジスの目線になるしか入っていく方法はありませんでした。
自分で何とかするしかなかった子どもたち
ジスが、平凡な優等生を表の顔にして大金が動く倫理や道徳が通じない欲望渦巻く世界を渡れる裏を知り尽くしたダークサイドスーパー高校生だったのかといえばそうではありません。
むしろ、普通過ぎる少年でした。
また、ギュリは裕福な家庭で育ち文武両道かつ先輩同級生男女問わず人気者の優秀な生徒でありながら、両親からのプレッシャーに追い詰められ自殺と紙一重のところにいました。
もう一人、恋人ギテを喜ばせるために自分の体を使って稼ぐジスの同級生ミニも、この方法しか目的を達成する方法を知らないという状況でした。
3人は、大人の助けがほんとうに必要な子どもたちでしたが、親から「大人には頼れないことを学んでしまって」いた子どもたちでもありました。
光るチェ・ミンスの存在感
ジスの運営する仲介業の現場担当をしていた用心棒を兼任するイ室長役を演じたのはカリスマベテラン俳優チェ・ミンス。
元軍人のワケありホームレスだったイ室長を頼りにしていたジスと、どんな大人よりも彼を信頼していたミニ。
他にもジスたちに助けが必要だと見抜いていた担任やスクールポリスさんはいましたが、イ室長だけがドロ沼に足を取られていた彼らのそばにいて助けとなる存在として光っていました。
チェ・ミンスの、寡黙で強くて、孤独だけれど優しいまなざしと態度の説得力はこのドラマの大事なパートでした。
ドラマ「人間レッスン」とは
大人には頼れないと学んでしまっていた子どもたち
自力で生きようとして方向を誤った傷だらけの高校生の物語
ハマリ度は
3.5
人間レッスンは、社会派の一面を持ち合わせたヒューマンクライムドラマ。
クライムサスペンスに慣れた方でも、もしかしたらテーマ上ちょっときついと感じるかもしれません。
このドラマのしんどいところは、自分で何とかするしかなかった子どもたちが破たんしていく様子を見ていくことになる部分。
しかし、彼らは窮地の中考え抜き、自分たちでできることを何とか探します。
そんな危ないことするからだという意見はただただナンセンス。
ここに、社会派ドラマとしての一面を感じるしかありませんでした。
結末部分についてはこの後ネタバレ部分で触れていきたいと思います。
ここからはネタバレがあります
ご注意ください
ネタバレ感想
社会の手が届かない子どもたちの姿
本作の担任や警察官など、彼らは親身になって子どもたちを助けようとしていた頼ってもいい存在でした。
けれど、ジスたちにとって、彼らは本当の意味で助けてはくれない存在でした。
ジスにとっては生活費・学費の工面が必要だった。
ギュリは恵まれた環境を子どもに与えているが子どもを支配しようとしている親をどうにかしたい状態だった。
ミニにとっては唯一の心のよりどころだった彼氏のギテをつなぎとめる費用が必要だった。
大人から見ると、それでも、その状況を緩和する方法はあると言えます。
けれど、ジスたちは親の姿から「大人には頼れないことを学んでしまって」いました。
大人に頼れないと学んだ子どもたち
大人には頼れない、ならば自分で何とかするしかなかった。
彼らの危険な行進に静かに寄り添っていたのがイ室長でした。
破たんの先は、誰かが傷つき命すら落とす危険に満ちたダークサイド。
この破たんの物語から、実質大人からの庇護と保護から漏れている子どもたちの存在が浮かびあがってきます。
方法を誤り、人を傷つけ自らも傷つき、守ってくれた大人を失った彼らの行く先はどこだったのか。
結末は
結末では、大けがを負ったジスをギュリがどこかへと連れていったようです。
ギュリは親から脱却するために、カード限度額いっぱいのお金を両親双方から手にしてオーストラリアへと旅立つ予定をしていました。
偽造パスポートでも用意してジスを連れていく可能性も残ったラスト。
目の前の生活費・学費を求めていたジスとは目的もモチベーションも違うギュリに稼いでいる方法を悟られ、ともに仲介業のシステムを回そうとしたことで歯車が狂い始めたのが破たんへの一歩でした。
しかし、慎重なジスと、ジスといることで救われると気づいた大胆なギュリの運営は失敗したけれど、次は違うビジネスでうまくいく可能性もある。
もちろん、どこかで捕まる可能性もある。
余韻を残したラストは、自分で何とか道を切り開くしかない子どもたちの必死なまなざしが鮮明に記憶に残ることになりました。
若手俳優が見せた底力
ギュリ役の新人女優パク・ジュヒョンの目力。
チェ・ミンスと堂々渡り合う演技を見せたミニ役のベテラン子役出身女優チョン・ダビン。
若手主演俳優となったキム・ドンヒ君の演じたジスの人間臭さなど、強い説得力を感じる、力強いキム・ジンミン監督の演出が栄えたドラマだったと感じます。
公式特別映像 制作者インタビュー動画
監督をはじめキャスト陣らが本作に対する思いを語ったインタビュー動画が公式から出ました。
本作の物語への賛辞や、撮影現場での様子、キャスト・スタッフ双方への信頼関係などこのドラマへの理解が更に深まりますね。
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