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窮鼠はチーズの夢を見る 視聴感想 誰かを深く愛したときに知るどうしようもない恋しさの意味

窮鼠はチーズの夢を見る

行定勲監督による、有名BLコミック原作の映画「窮鼠はチーズの夢を見る」

コロナ禍で一時延期されていた劇場公開が2020年9月11日に初日を迎えてから、女性を中心とした観客動員数は好調、ヒットとなっている模様です。

BLファン・俳優のファンが多くを占めていると推測はできますね。

ただ、実際に映画を見た印象としては、自分でもどうしようもない思いに身を焦がす恋の苦しさと深みを描き出した映画としての魅力が際立っていて、ファン以外にも広く見てもらいたい作品だと感じました。

今回もどういったところに魅力を感じたのか語っていきたいと思います。

まだ上映中ではあるのですが、ネタバレを避けて語れそうにありません。

全体的にネタバレを含んでいますので、望まれない方はご注意ください。

作品情報

公開・原作

公開

2020年 日本

原作:水城せとな

「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

監督・キャスト

監督:行定勲

GO(2001)
世界の中心で、愛を叫ぶ(2004)
パレード(2010)
リバーズ・エッジ(2018)
窮鼠はチーズの夢を見る(2020)
劇場(2020)  他

キャスト

大倉忠義(大伴恭一)
成田凌(今ヶ瀬渉)
吉田志織(岡村たまき)
さとうほなみ(夏生)
咲妃みゆ(大伴知佳子) 他

冒頭あらすじ

大伴恭一は、外見の良さと人当たりの良さ、そして彼を求める女性を拒まないため今も仕事関係の女性と不倫していた。

妻とはうまくいっているつもりの恭一は、妻が自分の浮気調査を依頼していたことなど知る由もなかった。

恭一を調査していたのは偶然にも大学の後輩今ヶ瀬。

7年ぶりに再会した今ヶ瀬は、恭一の不倫を伏せる条件のようにキスをせがむ。

今ヶ瀬は大学時代から恭一だけを想い続けていたのだった。

予告編

この物語のエモーショナルなシーンや印象的なセリフを盛り込んだ予告編となっていますね。

「窮鼠はチーズの夢を見る」は、動きを止めてしまった湖面のような恭一が、大きな感情のうねりをぶつけてくる今ヶ瀬につき動かされていくエモーショナルな物語でした。

窮鼠はチーズの夢を見る が描いたもの

誰かを愛したとき、自分がどうなるのかを痛いほどに知る

実は人生がしっくりきていないことに全く気づいていなかった恭一。

自分に言い寄る女性がタイプだったら“相手を思いやって“拒まず受け入れてきた。

そんな恭一にとって、結婚も不倫も同じ土俵の話。

妻が好きだ大切だと本人は思っているけれど、行動は愛しているとは言えないことに気づいていない

なので去る者ものを追わない。それが妻でも。

だからこそ、本当に誰かを愛しているとき自分はどうなるのかを、痛いほどに気づくことになる恭一の姿が鮮明に浮き上がってきました。

深く愛するからこそ相手を自由にしてあげたい

今ヶ瀬の愛のベクトルは恭一にしか向いていません

そして彼の愛は、

  • 恭一の悦ぶことをしてあげたい
  • 恭一を追い詰めず自由にしてあげたい
  • すべて受け入れてあげたい

という思いでした。

だからこそ、一緒に暮らし始めて、恭一は今ヶ瀬といる時の自分が幸せであることに気づくようになるんです。

性別という心の壁を越えさせたあとに生まれた葛藤

常に恭一を自由にしてあげたい今ヶ瀬にとって、彼の「男である自分を選べない思い」があるならば、それを受け入れるしかありませんでした。

でも、そのハードルの存在が、体の関係をもったことによって変化を見せます。

恭一の自分に対する態度や変化を知ってうれしい反面、不安が嫉妬に代わる自分の心や態度が恭一を縛ることになりそうで怖い今ヶ瀬

今ヶ瀬の愛は決して恭一を追い詰めないこと

それができないかもしれないと感じた時、今ヶ瀬の取れる選択は彼から離れること、でした。

愛ゆえに、相手を自由にしてあげたくて選ぶ別れ

今ヶ瀬は、恭一には長時間コトコトと煮込む料理を作るような(根気強い)人を見つけてと言い、

恭一はお前をもっと愛してくれる人を見つけてと言う。

2人はそれぞれ、相手に相応しい人を願っている。

それは自分が相手にとって不足していると感じている部分。

けれど、実のところ、今ヶ瀬以上に根気強く恭一を愛せる人はいないし、恭一以外に今ヶ瀬が愛してほしい人などいない

ふたりは互いを愛するあまり、相手を自分から自由にしてあげたいと思っている…。

別れのシーンは、愛が生んだ切ないすれ違いを物悲しく描く海辺のシーンでした。

二人の選択

今ヶ瀬を失って、愛することと失うことの痛みを知った恭一

求めあっていて、体の相性も良く、わがままをぶつけたりもできる心をゆだねられる相手が誰なのかは明らか。

一晩だけ、と体を重ねてしまう二人の時間のあとにやってくる未来のない朝。

これまでの恭一の生き方を知っている今ヶ瀬にとって、自分と別れた後付き合い始め婚約した「部下たまきと別れる」という恭一の言葉を真に受けることはできない。

自分を選んでもらえる自信もなく、静かに彼の元を去った今ヶ瀬。

だからこそ、恭一がたまきと別れ今ヶ瀬と生きる道を選ぶ覚悟を決めていたラストシーンは大きなクライマックスでした。

恭一は自分だけを愛している今ヶ瀬が再び必ず会いにくるはずだと知っている。

その時、今ヶ瀬を愛していると示せるよう準備する恭一の姿。

他の人では埋まらない恋しさに泣き崩れる今ヶ瀬はきっといつかまた恭一を見つめに来て彼がひとりなのを知る

これは、ハッピーエンドの物語。

窮鼠はチーズの夢を見る とは

悲しませたくない、悦ばせたい、あなたの代わりはいない…
幸せと痛みを知る深い恋を知った二人の愛の物語

ハマリ度は

 4

成田凌が演じた今ヶ瀬が本当に素晴らしい…。

この今ヶ瀬なくしては、この映画を貫くウエッティーでずぶりとはまり込むような体ごと落ちていく深い愛の物語の感性を表現できなかったのでは?と感じてしまいます。

今年の春に、BLの実写作品がやがてシンプルにロマンスのカテゴリーに分類される日が日本にも来て欲しいなんていう願いをコラムで語りました。

こうして、実力派の監督さんやキャストによって制作された本作を見ていると、その日がぐぐっと近づいたような気がします

「窮鼠はチーズの夢を見る」は、誰かを深く愛した男の物語であり、またその人を愛するということを知った男の幸せと痛みの物語。

純愛というよりも、私は愛するがゆえにドロドロした自分の気持ちに向き合い、失う悲しさと彼なしでいられない焦れるような恋しさに身もだえする二人の姿にグッときました。

もう一度見たくなる作品、という評判には同意です。

あのシーンの恭一の表情はどうだったんだろう、今ヶ瀬はあそこでなぜああ言ったんだろう、そんなことを今思い返しています。

ちなみにベッドシーンはあります。

体の関係が2人にとって意味があることゆえに。

さいごに:たまきが問うた言葉の皮肉さ

恭一が婚約者のたまきに「前に付き合っていた人を待ちたい」と別れを切り出した時、彼女は聞きました。

「結婚するんですか?」

と。

無理もない問いです。

社内恋愛で婚約まで来て別れを切り出された彼女にとって、忘れられない前の恋人と結婚するというならばほんの少し諦める一助にでもなるかのような聞き方でした。

言葉に詰まったあと恭一は「一緒にいられるよう努力をする」というようなことを言ったと思います。(ちょっとうろ覚えでごめんなさい)

日本では法的に同性婚は認められていません。

どれほど今ヶ瀬のように恭一を愛していても、恭一が今ヶ瀬と共に生きたいと思っても、法的に証を得られないという現実を突きつけられた

結婚が恋のゴールでも答えでもないけれど、社会的にみた約束の効力がそこにはあるという現実。

胸が絞まる皮肉なシーンとして鮮やかに記憶に残った彼女の問いでした。

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